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迷宮都市ラビリントゥムには様々な種族が集まっているが、珈琲にミルクを溶かしたように均一なわけではない。むしろ生クリームを浮かべたように、くっきりと層が分かれている。
それは種族間の対立感情が原因のこともあれば、シンプルに利便性から来るものもある。たとえば
正直、「遠い親戚に偉い人がいる」といったレベルの迂遠さである気もするが、他の種族も多かれ少なかれ同じような意識を持っていることも否めない。
とはいえ、他種族ならば表向きには御伽噺として秘めた誇りとしているものを、
それは、種族的に強靭であることだ。
その鱗は小口径の銃弾ならば弾き返すし、その身にこもった そういう傲慢な性質を持つ
(はあ、やっぱりこんなところで店をやるんじゃなかったかな……)
「おい、鱗なし! 酒が遅えぞ!」
「す、すみません! ただいま!」 「おい、鱗なし! 俺のはネギ抜きだっつったろ!」 「すみません! 取り替えます!」 「おい、鱗なし!」「鱗なし!」「鱗なし!」「鱗なし!」「鱗なし!」てんてこ舞いである。
ただでさえ忙しいと云うのに、従業員が皆辞めてしまったのが痛い。 どうして辞めてしまったのかと言えば――「きゃあっ!?」
背中に衝撃。頭から冷たい液体を被った。
襟から入ったそれは瞬く間に下着まで濡らす。「バカ野郎! 俺の酒がこぼれちまったじゃねえか!」
「翼もねえのにふらふらしてんじゃねえよ!」 「翼がねえからふらふらしてんじゃねえのか?」 「そりゃそうかもなあ」ガラガラガラガラ。
「おい、鱗なし。俺の服が濡れちまったぞ。こいつぁ高かったんだがなあ」
「も、申し訳ございません……」 「謝って済んだら巡察は要らねえんだよ!」 「申し訳ございません……。あ、あの、洗濯はさせていただきますので……」 「ハア? 汚え鱗なしに俺の服を洗濯なんてさせるわけがねえだろうが。弁償は今日の勘定で許してやるよ」これである。
この場所に店を構えて5年、楽だったとは言わないが、経営は軌道に乗っていたのだ。急激に客層が悪くなった。
常連は去り、従業員も次々に辞めた。 何がきっかけだったかは知らない。
(地上げ目的……ってことだけはなさそうだけど)
スラムにほど近く、面した路地は湿気でじめじめしていて、風向きの悪い日には嫌な臭いが流れてくる。飲食店の立地としては最悪で、だからこそ格安で営業権付きの物件を買えたのだ。実際、ラスティが買うまでは何年も空き家だったそうで、廃屋にしか見えない荒れ具合だったのだ。
可能であれば、他の場所でやり直したい。
しかし、そんな金などどこにもない。独り者の男が多いラビリントゥムで飲食店は手堅い商売で、よほどの例外でもなければ物件が安くなることなどないのだ。なお仲介屋の話によると、この店は本来飲食店の営業許可が下りるような場所ではなく、行政のミスで認可され、そのまま取り消されずに放置されていたことも安さの理由のひとつだと云う。その話を聞いたときには、生まれて初めて役人の仕事の遅さと無責任さに感謝した。……もっとも、今やそれは後悔の暗い色に彩られた思い出だが。
「おい、鱗なし! ぐずぐずしてんじゃねえぞ!」
ほんの束の間、あらぬ思いに囚われていた心が現実に引き戻される。
慌てて駆けようとした足元に、何かが絡む。 派手に転倒し、片付けようと手にしていた食器が宙を舞って、食べ残しを頭からかぶってしまう。「クソ鱗なしが! 俺の尻尾を踏んでんじゃねえ!」
「……す、すみません」踏んだのではない。引っ掛けられたのだ。
しかし、反論すればより嫌がらせがひどくなるのは目に見えている。 唇を噛み、俯いて耐える。 そのときだった――「おーほっほっほっほっ! おーほっほっほっほっ! ……けほっけほっ」
「お嬢様、大丈夫ですか? 下賤な酒場の空気に肺をやられてはおられませんか?」不自然な高笑いとともに、スイングドアが開いた。
入ってきたのは二人連れ。 ひとりは金髪をドリルじみた巻き髪に仕立て、やたらひらひらとしたドレスをまとった少女。年は十代前半くらいか。もうひとりは黒い執事服の青年。
少女よりはいくらか年嵩に見える青年は、白手袋をはめた手でドアを押さえ、「さあお嬢様、こちらの席に」
「あらセバス、お店の方の案内を待たなくてよいのかしら?」 「こうした下賤の店では、空いた席を勝手に選ぶのです。アーカイブを参照したところ、この店は20世紀後半の西部劇に登場するサルーンに近似のスタイル。マナーはこれで間違いございません」 「さすがはセバス、庶民向けのお店にも詳しいのね。なんでも知っていてすごいわ」 「過分なお言葉、身に余る光栄。しかし、なんでも知っているわけではございません。お嬢様のご期待に答えられるよう、お望みに沿って学んでいるのみでございます」 「うふふ、わたくしはよい従者に恵まれたのね」セバスと呼ばれた青年は、空いたテーブルの椅子を引くと、座面にハンカチを広げた。
そして巻き髪の少女はたおやかな所作で小さなお尻を椅子に乗せる。 まるで社交ダンスの一幕を切り取ったような光景に、ラスティはそれをぽかんと見つめることしかできなかった。「あの少女は何者だったのだろうか」 早暁。空が白み、小鳥たちが囀り始める頃。 アルドールは真樹派教会の礼拝堂で、ただ一人祈っていた。 両手を組み、傅いているのは真樹派の崇める世界樹を象った神像。 それにもたれるように、神弓イーヴァルヴィズルを携えた勇者の姿が彫り込まれている――はずだ。 アルドールの目はもはやそれを映すことはかなわない。 あの日、奇跡的に一命は取り留めたものの、オリーヴ色の両眼は白濁に色を変え、永久に光を失った。 代わりに、瞼の裏に焼き付いた姿がある。 切削刃の如き、金の巻き髪。 紫水晶の如き、紺碧の双眸。 白磁器の如き、滑らかな肌。 そして、少女の腰よりも身幅の広い、一振りの黒い大剣。 空を駆け、自由自在に剣を振るって混沌を退け、聖剣さえも跳ね返した存在。彼女の活躍によって救われた命は十万でも足らないだろう。 名をホウオウイン・レイカ。 異端者リンネの屋敷で働いていた助手であり、その企みをたった一人で挫いた戦士でもある。 ――勇者たちが立ち上がったのは、己の良心に従ってのことですわ。神様はそれを見守ってくださったかもしれませんが、立ち向かう意志は、勇気は、誰かから与えられたものなどではございませんの リンネの屋敷で交わしたわずかな会話。 茫洋とした少女の碧い瞳に、一瞬だけ力強い意志が宿っていたように見えたのは錯覚ではなかったか。「勇者……勇者たち……」 彼女は果たして、本当に勇者なのだろうか。 教団の教義では、たとえ様々に姿を変えようとも勇者は唯一人である。 もしも彼女が本当に千年前に世界を救った勇者で、そのひとりに過ぎないのだとしたら。その事実が知れ渡れば教団の混乱は免れないだろう。下手をすれば、分裂し教派間の戦争が始まるかもしれない。 そして、それを防ぐのが異端審問官の役目である。 だが、 アルバートの真っ暗な世界では、ただ少女の姿だけが輝いている。 心の中でさえ、異端と呼ぶことができない。 あるいは、彼女こそは真理なのではないか。 そう思う心が抑えられない。「神よ……偉大なる世界樹よ……」 だから、アルバートは神に祈る。 異端審問官になる際に、捨てたはずの神に。 人の身では抱えきれぬ苦悩に直面したときこそ、神に祈りを捧げるのかもしれない。
勇者の再臨。 そんなことがありえるのだろうか。 絶対にありえない。 それが、これまでのリンネの考えであった。 だが、眼前で繰り広げられている光景は何であろうか。 少女が宙を舞っている。 比喩ではない。 文字通り、空中で舞い踊っているのだ。 金糸のような巻き髪をたなびかせて、 くるくると、スカートの裾を翻し、 その手には黒い大剣。 複雑な文様が放つ光が一筆ごとに異なる色の線を引き、混沌を引き裂いていく。 少しずつ、少しずつ、チーズを削るように。 削り取られた肉片は、光の粒となって大気に溶けていく。 混沌とてやられるがままではない。 無数の人体を練り合わせて作った掌を少女に向かって伸ばす。 その速度は遅く見えるが、それは距離と巨大さから来る錯覚だ。 一本一本が、謝肉寺院の大礼拝堂を支える主柱ほどある。 矢のような速度で殺到する触手の群れ。 群がるそれを、優雅なステップで軽やかにかわす。 かわす。 かわす。 それはまるで、 蝶を追う子供の手のようであり、 天より垂れた糸に縋る亡者の手のようでもあった。 かわすたびに大剣が振るわれ、 指を切り落とし、 手首を切り落とし、 前腕を半ばから両断する。「なんて動きだ……」 眼前で繰り広げられる絶美に奪われていた己の理性を呼び覚ますため、リンネはあえて声に出して呟いた。「分析しなければ……」 まず、空中飛行の魔術。 通常、竜鱗の裔や翼腕鳥人、喋蝦蛄のような有翼種族を除けば、機械や魔道具の補助もなしに空を飛べる者などいない。ところがあの少女は、それらしい道具に一切頼っていないように見える。 また、混沌の因子は魔素に干渉する。あの怪物の直上は、魔力場が相当に乱れているはずだ。例え有翼種であってもまともに飛べる環境ではない。 にもかかわらず、少女は自在に空を舞っている。膨大な魔素出力と、精緻なコントロールが両立しなければ到底成し得ない所業だ。例えるなら、一本の絹糸の上を全力で駆けながら軽業を披露するようなもの。それほどの絶技を、少女自身よりも重いであろう大剣を操りながら、汗ひとつかくことなくやってのけている。 次に剣術の冴え。 リンネは剣術については完全な門外漢である。長剣と|幅広
赤い霧は薄れ、今は低い位置に靄がかかる程度になっていた。 リンネはバルコニーから身を乗り出し、光受容細胞を集中して眼下の光景に見入っている。 それは油絵具をでたらめにぶちまけた抽象画のようだった。 赤が、青が、黄色が、緑が白が黒が茶色が滅茶苦茶に入り混じり、地面を埋め尽くし、何か巨大な生物の内臓のように脈動している。あちこちで起きる小爆発は僧兵による銃撃だろう。衝撃波を発生させる鎮圧用の魔弾を使っているようだが、効果はあまりなさそうだ。 その上には、無数の人影が蠢いていた。 顔面を掻きむしって泣きわめく人間。頬の皮膚がべろりと剥がれ指に絡みつくが、すぐにとろけて指そのものに同化する。めくられた皮膚は瞬く間に再生し、再びべろりと引き剥がされる。 咆哮しながら手近な人間に喰らいついているのは食人巨鬼。若い女の肩口に噛みつくが、顎と肩肉が癒着し、顔を埋めたままくぐもった叫びを上げる。 竜鱗の裔が火の吐息で緑肌矮人を黒焦げの炭に変えるが、卵の殻を剥くように炭化した組織が剥がれ落ち、内側から現れた緑肌矮人がわけもわからない風にきょろきょろとあちこちを見回している。 いずれも下半身が脈動する異形の大地と融け合わさっている。大地からは代わる代わる人が生え、また溶け落ちるように沈んでいった。混沌に飲み込まれた人々が再生と融合を繰り返しているのだ。「なるほどなるほど、他の生物や物質と融合しても、すぐに意識を失うわけじゃないのか」 リンネは目の前の光景を神経細胞の回路に刻み込み、体内の最も安全な深部にしまい込む。粘体生物は体細胞の位置を変更し、全身で効率的に記憶を行えるが、重要な記憶は損傷を防ぐために体表から遠ざけるのだ。「同志ィいいいぃイ! リンネぇ同志ィいいいぃイ!」 己の名を呼ぶ声。 混沌の中央あたり、そこにイワナガの身体が生え、大きく手を振っていた。上唇と下唇が癒着しかかって糸を引いている。声帯や口腔も元の形は保っていないのだろう。人外じみた奇妙な発音になっていた。「リンネ同志ィ! やリました やりまスィたゾぉ! 大ホウ壊 始源の地ゴク 混沌に満ちた世界の終ワリ! 勇者再臨のトキは来たレリぃ!」 イワナガの胴体が蛇の
【巡察官による捜査資料より抜粋】◯氏名:チュユ氏族のキリリ◯性別:女性◯種族:緑肌矮人◯爵位・階級:二等市民◯備考:重要参考人(カール・フォン・リンネ 粘体生物)の隣家の使用人。副業で占い師◯聴取内容(録音ママ): ええ、はい。ちょうどお勤めが終わりまして、二等市民街の家に帰るところでした。ああ、あたしは通いでしてね。洗濯だの掃除だの、一通りの用事が済んだら帰るんですよ。 最初はね、地震だと思ったんです。 ぶるぶるぶるぶるって、地面が細かく揺れる感じで。 でも、驚くじゃありませんか。 どおおおおおーーーーーん! って、急に突き上げるような揺れが。 それで、隣のリンネ先生…… いや、もう呼び捨ての方がいいんですかね? 異端が起こしたテロに関わっていたんでしょう? 時々頼まれごとなんかされてたんですよ。 ああ、恐ろしい恐ろしい。 あんな人の好さそうな顔してねえ……。 あ、いえ、言葉のアヤですよ。 粘体生物に顔つきも何もありませんって。 ほんと、よくわからなくて不気味な連中ですよねえ。 あ、すみません。話を戻しますね。 それで、リンネの屋敷がどどどどどどって崩れ落ちましてね。 いやあ、仰天しましたよ。 思わず腰を抜かしちゃって、持って帰ろうとしてた卵がみんな割れちゃいましたからね。 あれ、嫌ですよう。盗んだわけじゃありませんって。 古くなった食材を持ち帰って処分しようとしてただけですからね。 ご主人様にお話しなさっちゃ嫌ですよ。 それで、リンネの屋敷が崩れて、もうもうっと土煙が上がって。 そこから何がでてきたと思います? 怪物ですよ、怪物。 迷宮の深層に住んでいるようなでっかくて醜いやつが、たーくさん。 え? 迷宮に潜ったことがあるのかって? 嫌ですよう、こんなおばさんを捕まえて。 あるわけないじゃないですか。 でも、怪物なら幻画や新聞でよく知ってますよ。 地下に潜れば潜るほど、大きくって強くって、不細工なやつが出てくるんでしょう? それから考えたら、あの怪物たちはどう考えたって最下層レベルですよ。 ひょっとしたら深淵から来たのかも? 深淵、知りません? 迷宮の最奥を迷宮探索者たちはそう呼ぶって言うじゃありませんか。 まだ誰も
広場で起きた異変を、リンネはじっと観察していた。もし眼球が備わっていたなら、その双眸は好奇心に爛々と輝いて見えただろう。 アルドールに招待されたのは想定外だった。公開処刑に立ち会わせることで捜査のきっかけを探ろうとしているものと思われたが、あえて乗ることにした。どうせ数日もすればイワナガが残してしまった証拠を嗅ぎつけられるだろう。いまさらその程度のことを恐れても仕方がない。 それに、どうせならこの実験を特等席で観察したかったし、多くの目撃者が得られるのもかえって好都合だった。「何が起こった!?」 アルドールが元から青白い顔をいっそう蒼白にしてこちらを振り返った。「さあ、勇者でも再臨したんじゃないですかね?」 肩を竦めてみせると、アルドールの額に血管が浮いた。「ふざけるなッ! 何か知っているんだろう! 正直に吐けッ!」 リンネのローブの襟を掴み、蒼白だった顔を真っ赤にして詰め寄ってくる。粘体生物でもないのに器用に体色を変えることだ。もちろん、仕掛け人はリンネである。何が起こっているのか知っている。これから何が起こるのかも。結末までは観察しなければわからないが、だからこその実験である。「何のことやらさっぱり。それより、いいんですか?」「……くっ!」 眼下の阿鼻叫喚は続いている。赤い霧は範囲を広げ、異形の触手が周辺の人々を次々と捕らえ、霧の中に飲み込んでいる。「一体何なのだあれは……」 側近たちへ矢継ぎ早に指示を飛ばしながら、アルドールがひとりごちる。(混沌の因子をせっせと抽出して集めたものだよ、って教えたらどんな顔をするかな) そんな好奇心が疼いてくるが、それをするには早すぎる。この場で拘束され、続きを観察できなくなってしまっては本末転倒だ。 イワナガに持たせたのは、高濃度の混沌の因子を溶かし込んだ液体を詰めた瓶である。内部にはナトリウム化合物を包んだガラス球を入れ、激しく振ると爆発する仕組みにしてあった。人混みに投げろとは言ったが、まさかこちらに振ってみせるとは思いもよらなかった。勇者再臨の儀式に殉じることを誇りたい気持ちでもあったのだろうか。(まあ、無事爆発もしたし、何でもいいんだけれど) 再臨派は、世に混沌が満ちれば再び勇者が降臨し、これを滅するのだと信じている。そのため、混沌の復活を目指すと称してあれこれと活
数日後、公開処刑の日が訪れた。 アルドールが処刑対象に選んだ異端は三名。鉄釘を打ち込んだ女、それから七歳の子供と足の弱った老人。いずれも人間で、再臨派の中枢に迫る情報は持っていない末端の信者だ。だが、同胞の同情は存分に買えるだろう。 謝肉派寺院前の広場に設けられた処刑台に、三名が磔にされている。手足は針金でくくりつけられ、口には鉄の猿ぐつわ。余計なことを喋られないようにするため、ではない。罪状の読み上げと説教を邪魔されないようにしているだけである。「この者たちは聖なる教えを裏切り、混沌の甘言に心を囚われた。彼らは愚かにも神と神の遣わせし勇者を疑い、その永遠を否定し、神の慈悲を拒絶し続けたのである――」 新古樹族の公証人が罪状を読み上げ、広場に集った観衆にざわめきが拡がる。罪状に絡めて語られる説教に心を打たれたわけではない。「説教はいいから早く処刑をしろよ」と急かす声がほとんどだ。 場所柄もあって観衆の多くは食人巨鬼で、彼らは処刑そのものへの興味は薄く、執行後の食肉の施しを期待しているだけだ。罪人の埋葬は禁じられているため、「墓荒らし」という余計な一手間が挟まらない。滅多に手に入らない新鮮な人肉にありつく貴重な機会なのである。 その他には緑肌矮人、竜鱗の裔、新古樹族、次いで人間が多い。比率としては食人巨鬼ーを十とすると、他の三種族が一から二ずつと言ったところか。同種族ごとでなんとなく集まっているので数えやすい。「哀れな罪人たちの罪を清める舎利の配布を開始します。神の愛し子たちよ、ぜひ手を貸していただきたい。哀れな魂が死後に混沌に飲み込まれず、大樹の糧となって汚穢を浄化し、再び実を結ばんことを」 新古樹族の侍祭たちが募金箱を捧げ持って観衆の間を回る。刑の執行場所こそ謝肉派寺院の前だが、今日の仕切りは真樹派が中心となっていた。公証人の祈りの言葉が真樹派のものだったのもそのためである。 観衆たちは小銭を募金箱に入れ、代わりに小石と贖宥符を受け取る。贖宥符は教団への寄進と引き換えに手に入れられる紙製の護符で、所有する量に応じて現世での罪が減じられ







